ついに日本語対応となったApple Intelligence(アップル・インテリジェンス)ですが、その実態は期待をはるかに下回る「周回遅れ」の状況で、実用性に大きな疑問符がつく結果となっています。当初は革新的なAI機能として期待されていたこの技術ですが、幾度の延期と機能制限により、ほぼ「使い物にならない」状態で提供されているのが現状です。
目次
- 1. 延期に次ぐ延期:約束は破られ続けた
- 2. 周回遅れの根本原因:プライバシー重視が招いたジレンマ
- 3. 競合他社との圧倒的な差:一周どころか複数周の遅れ
- 4. 使い物にならない現状:完成度の低さ
- 5. 広告と実態の乖離:虚偽広告で訴訟問題に
- 6. Apple Intelligenceの今後:深まるジレンマ
- 7. 結論:Appleの選択と今後の展望
1. 延期に次ぐ延期:約束は破られ続けた
Apple Intelligenceは2024年、iPhoneとSiriに生成AIを統合する画期的な機能として発表されました。当初はiPhone 16と共に搭載される予定でしたが、計画は静かに後退していきました [1]。その後の経過を見ると、iOSのアップデートと合わせて「iOS 18.1で提供」、「iOS 18.4で提供」と延期が繰り返され、最終的には「2026年までリリース時期未定」という驚くべき発表に至りました [3][4]。
特に深刻なのは、Appleが2024年9月にリリースした広告では、既に機能しているかのように見せていた点です。「Siri、2カ月前にカフェ〇〇のミーティングで会った男性の名前なんだっけ?」という複雑な質問に答えられるAI機能を宣伝していましたが、この広告は後に「何の説明もなくYouTubeから削除」されてしまいました [4]。
iPhone 16シリーズのユーザーは、「支払った金額に見合った機能を得られなくなる」という厳しい現実に直面しています [3]。これはまさに「コミュニケーション上の大惨事」と表現されるほどの失態です [3]。
2. 周回遅れの根本原因:プライバシー重視が招いたジレンマ
Apple Intelligenceが大幅に遅れた背景には、Appleが長年掲げてきた明確なポリシーがありました。それが「ユーザープライバシーの保護」です [1]。Appleは一貫して、ユーザーデータを他社のようにサーバーに集積・解析するのではなく、できる限りユーザーのデバイス内で処理を完結させる「オンデバイス処理」を重視してきました [1]。
対照的に、GoogleやAmazonは、ユーザーの検索履歴、位置情報、音声データなど、膨大な情報をクラウドに蓄積し、それをAIモデルの訓練に活用してきました [1]。オンデバイス型AIは、デバイス自身で情報を処理するため、情報処理能力に限界があります [2]。
このプライバシー優先のアプローチは、「安心できる設計」として評価される一方で、AI開発の観点からは明確なボトルネックとなりました [1]。AIが高度に文脈を理解するには、膨大なユーザー行動データと継続的なフィードバックが不可欠であり、Appleの設計方針はそれを自ら制限する形になっていたのです [1]。
3. 競合他社との圧倒的な差:一周どころか複数周の遅れ
Apple Intelligenceの遅れは、単なる「一周遅れ」ではなく、複数周の遅れを意味しています。Appleは、Google(Google Assistant、Gemini)やMicrosoft(OpenAIを搭載したCopilot)、Samsung(Galaxy AI)などの直接的な競合相手と比較すると、AI競争で大きく遅れをとっています [3]。
ブルームバーグのテクノロジージャーナリスト、マーク・ガーマン氏は、AppleのAI開発チームはChatGPTのような完全な会話型Siriは2027年まで実現できないと考えていることを明らかにしました [3]。これは、目まぐるしいスピードで発展しているAIの分野でAppleが取り残されるリスクをさらに浮き彫りにするものです [3]。
皮肉なことに、Siriは市場で最初に登場したバーチャルアシスタントの1つであるにもかかわらず、現在は後から開発された競合製品に比べて機能面で大きく遅れをとっています [3]。「天気を教えて」「リマインダーをセットして」といった単純な命令には応えられても、会話の流れを理解したり、複数の情報を横断的に扱うことが極めて苦手なままです [1]。
4. 使い物にならない現状:完成度の低さ
現時点でのApple Intelligenceの精度については、Bloombergによれば「制作側の意図通りに動作する頻度は、2/3から80%といったところ」だとのこと [4]。これは使った人たちの感想とも一致しており、「まだ全然使いものにならないレベル」と評価されています [4]。
さらに深刻なのは、現行のSiriでさえ基本的な機能が後退している点です。「What month is it?(今は何月?)」とSiriに尋ねると「I don’t understand(分かりません)」という答えが返ってくるという問題が報告されています [11]。これは、最新のiOS 18.4ベータ版のSiriでも解決されていない基本的な問題です [11]。
進化したAIのSiriは最大で3分の1ほどは正常に動作しないとのことで、開発が間に合っておらず、まだまだ品質が低いことから、機能の導入を遅らせる決定をせざるを得なかったようです [5]。
5. 広告と実態の乖離:虚偽広告で訴訟問題に
Apple Intelligenceの一部機能の提供が遅れていることを巡り、米国カリフォルニア州で2025年3月19日、アップルに対する集団訴訟が提起されました [8]。
訴状によると、原告はアップルが2024年夏から展開した一連の広告、宣伝活動について、「iPhone 16」シリーズの発売と同時に、強化されたSiriを含むApple Intelligenceの高度な機能を利用できると消費者に誤解させるものだったと指摘しています [8]。
アップルはこうした機能をスケジュール通りに、あるいはそもそも提供できないことを知りながら、虚偽広告を展開し続けたと主張されています [8]。この広告が「かつてないほどの興奮」を生み出し、何百万もの消費者が本来不要だった端末のアップグレードを決断する要因となったとも指摘されています [9]。
見切り発車PRの犠牲になったのはSiri開発チーム自身でもあります [4]。ロビー・ウォーカー氏はチームの全員を集めてミーティングを開き「みんな今の状況に憤りや屈辱を感じ、燃え尽き気味かと思う」と声をかけたと伝えられています [4]。
6. Apple Intelligenceの今後:深まるジレンマ
Appleは現在、AIにおける根本的なジレンマに直面しています。AIには大規模な学習データが必要ですが、アップルはそれを大規模に扱わない方針を長く維持してきました [10]。しかし、AIはこれからの必須要素になることは避けられません。
アップルのAIへの取り組みはまさに「周回遅れ」の状態で、アップル評論家として知られるジョン・グルーバーは「デモできる状態ですらないAIを、新iPhoneの目玉に据えてCM流すとかマジでありえない。ジョブズ復帰前の、倒産寸前だったころのAppleみたいだ」と厳しく批判しています [4]。
2026年までリリースが延期されたApple Intelligenceが、その時点で競合他社に追いつくことができるのか、大きな疑問が残ります。現在のペースでは、「AppleがAIレースに参入する頃には、競合他社はすでにゴールラインを越えているだろう」と評価されています [3]。
7. 結論:Appleの選択と今後の展望
Apple Intelligenceは現時点で「使い物にならない」状態であり、その開発は「周回遅れ」の状況にあります。プライバシーを重視するアップルの哲学と、データ集積を必要とするAI開発の間で、同社は難しい選択を迫られています。
ユーザーにとって今重要なのは、Apple Intelligenceのような未熟な技術を理由にデバイスをアップグレードするのではなく、「ハードがかなり変更される時か、まったく変更されないでしばらく使えそうな両極端な時」が買い替え時であるという視点かもしれません [6]。
アップルが自社の哲学を守りながらも、競合他社に追いつけるAI戦略を見出せるかどうか、今後の展開が注目されます。
参考文献
- [1] note.com. “AppleのAI戦略:プライバシー重視の代償”
- [2] businesskouzamitsuketai.com. “Appleの生成AI戦略:プライバシー保護との両立”
- [3] vietnam.vn. “Apple、AI戦略の遅れに苦悩”
- [4] gizmodo.jp. “Apple Intelligenceの延期:Siri開発チームの苦悩”
- [5] smhn.info. “Apple、SiriのAI機能搭載を延期”
- [6] garretcafe.com. “iPhone買い替えのタイミング:最新情報”
- [7] itmedia.co.jp. “iPhone 16の噂:AI機能搭載は?”
- [8] Yahoo!ニュース. “Apple、虚偽広告で集団訴訟”
- [9] livedoor.com. “Apple Intelligence広告に批判”
- [10] forbesjapan.com. “AppleのAI戦略の課題”
- [11] cnet.com. “Siriの基本機能低下”