SNS上で話題となったChatGPTによるジブリ風画像生成。この記事では、OpenAI最新の画像生成機能が引き起こした著作権問題と法的懸念について詳細に解説します。AIによる著作権侵害の成立要件、画風とキャラクターの法的区分、スタジオジブリとOpenAIの反応、法的な状況と国際的視点などを網羅的に解説します。
目次
- 1. ジブリ風画像生成の急速な拡散
- 2. 画像生成AIと著作権問題の核心
- 3. スタジオジブリとOpenAIの反応
- 4. 法的な状況と国際的視点
- 5. 宮崎駿監督のAIに対する姿勢
- 6. 今後の展望と課題
- 7. おわりに
1. ジブリ風画像生成の急速な拡散
2025年3月26日、OpenAIはChatGPTに新たな画像生成機能「4o Image Generation」を実装しました [1]。この機能により、ユーザーはChatGPTに画像をアップロードし「ジブリ風にして」と指示するだけで、日本を代表するアニメーション制作会社スタジオジブリの特徴的な画風を模倣した画像を生成できるようになりました。
この機能の公開からわずか数日で、SNS上にはスタジオジブリ風のAI生成画像が大量に投稿され、世界的な流行現象となりました [2]。特に話題となったのは、イーロン・マスク氏やドナルド・トランプ氏の肖像画、映画『ロード・オブ・ザ・リング』のシーンなどをジブリ風に変換した画像です [1]。
2. 画像生成AIと著作権問題の核心
2.1 AIによる著作権侵害の成立要件
AIと著作権の問題は主に二つの側面があります。一つはAIの学習段階で他人の著作物を利用することの適法性、もう一つはAI生成画像が既存の著作物の著作権を侵害するかという問題です [3]。
著作権侵害が成立するためには、以下の3つの要件を全て満たす必要があります:
- 他人の既存の画像やイラストが著作物にあたること(著作物性)
- これと同一または類似の複製物が作成されたこと(類似性)
- 作成が他人の既存の画像やイラストに依拠して行われたこと(依拠性) [3]
2.2 「画風」と「キャラクター」の法的区分
専門家の見解によると、「ジブリ風」といった特定の「画風」や「スタイル」を模倣することは、著作権侵害の問題が発生しにくいとされています [4]。一方で、「トトロの画像を生成してください」や「『千と千尋の神隠し』の千尋の画像を生成してください」といった、既存の作品に登場する具体的なキャラクターを指定して生成する場合は、著作権侵害にあたる可能性が極めて高いとされています [4]。
2.3 AIの学習プロセスにおける法的グレーゾーン
問題をさらに複雑にしているのは、AIモデルの学習プロセスです。OpenAIがスタジオジブリ作品のフレームを学習データとして使用した可能性があり、これが著作権法上のフェアユースに該当するかどうかが議論の焦点となっています [5]。
3. スタジオジブリとOpenAIの反応
3.1 偽の警告書とジブリの公式反応
3月27日頃、「スタジオジブリの法定代理人がジブリ風画像を生成するアプリに対して警告状を送った」という情報がSNS上で拡散しましたが、これは真偽不明のフェイク情報であることが後に明らかになりました [4], [6]。スタジオジブリはNHKの取材に対し、「警告書を出した事実はない」と明言しています [6]。
BuzzFeed Japanがスタジオジブリに「生成AIがジブリ風の画像を生成することをどのように受け止めているか」と質問したところ、「弊社から特にコメントすることはございません」との回答がありました [2]。
3.2 OpenAIの立場
テッククランチへの声明で、OpenAIの広報担当者は、ChatGPTは「個々の存命するアーティストのスタイル」を複製することを拒否する一方で、「より広いスタジオスタイル」の複製を許可していると述べています [5]。
4. 法的な状況と国際的視点
4.1 進行中の訴訟
現在、The New York Timesをはじめとする複数の出版社はOpenAIに対し、適切な帰属や支払いなしに著作権で保護された作品をAIモデルの学習に使用したとして訴訟を起こしています [5]。MetaやAI画像生成スタートアップのMidjourneyなど、他の大手AI企業に対しても同様の訴えが提起されており、AI画像生成に関する法的な判断はまだ確定していない状況です [5]。
4.2 AIと著作権に関する国際的見解
2025年1月の米国著作権局の報告書によれば、完全にAIによって作成された作品には著作権が付与されないとされています [7]。人間の創作的関与がある作品のみが著作権保護の対象となるため、ユーザーが単に写真をアップロードしてAIに変換を依頼した場合、その結果物は純粋なAI製品とみなされ、著作権保護の対象外となる可能性があります [7]。
5. 宮崎駿監督のAIに対する姿勢
この問題で注目されているのは、スタジオジブリの創設者である宮崎駿監督の2016年の発言です。AIによるデモンストレーションを見た際に「僕はこれを自分たちの仕事につなげたいとは全然思いません。極めて何か生命に対する侮辱を感じます」と激怒したことが再び注目を集めています [1], [7]。
6. 今後の展望と課題
AIによる画像生成技術は今後もさらに発展していくと考えられますが、著作権問題との兼ね合いは未解決の課題として残ります。特に「画風」と「キャラクター」の境界線が曖昧なケースや、AIが学習に使用したデータの著作権問題は、法的な判断が確立されるまで議論が続くでしょう。
企業やユーザーは、AIを利用する際に著作権を侵害するリスクを理解し、適切な使用方法を心がける必要があります。特定のキャラクターを描かせるような明らかな著作権侵害は避け、創作活動の一環として画風の模倣にとどめるという判断が現時点では安全策と言えるでしょう。
7. おわりに
ChatGPTのジブリ風画像生成をめぐる問題は、AIによる創作活動と著作権法の現状のギャップを浮き彫りにしました。テクノロジーの進化は常に法制度の追従を必要とし、両者のバランスを取りながら発展していくことが重要です。今後の裁判所の判断や法整備の動向に注目しつつ、創造性を尊重した技術活用の在り方を模索していく必要があるでしょう。
参考文献
- [1] coki.jp. “AIと著作権:企業が知っておくべきリスクと対策”
- [2] buzzfeed.com. “ChatGPTで「ジブリ風」画像が大量生成される現象について”
- [3] kigyobengo.com. “AI生成物の著作権侵害とは?成立要件を弁護士が解説”
- [4] note.com. “生成AIと著作権侵害の境界線:法的リスクを解説”
- [5] note.com. “AI生成画像と著作権:OpenAI訴訟から学ぶ法的リスク”
- [6] news.vocofm.com. “スタジオジブリ、AI生成画像への警告状を否定”
- [7] vietnam.vn. “ChatGPTによるジブリ風画像生成、著作権侵害の議論を呼ぶ”